☆出発編


市川〜稚内

 とても厳しい幕開けでした。
 カゼ気味で、薬を飲んだものの気分が悪いまま。
 憂鬱な僕の気持ちが空に伝わったのか、すべてを洗い流すかのような大雨が降りました。
 それでも僕は、北へ向かうしかなかったのです。



出発の夜。
すべてを置き去りにするわけではなく、今の僕に必要な物だけを連れてゆく。


港に船を迎える。すべてをこの船に委ね、僕は北へと向かう。


軌跡はやがて曖昧になり、消えてゆく。
僕の思い−どこから来たのか忘れようとしていること−が形になって現れる。


船から眺める日没は、たいていの場合美しい。
船から海への軸と、昼から夜への軸にグラデーションが交差し、
その中心に僕がいる。


雨が上がると、空と道の両方に空が広がり、雲が浮かぶ。
僕は宙に浮いているような錯覚を覚え、不安になる。


北緯45度。目に見えない線ではあるけれど。


もう少しここにいたい。バックミラーには、いつもそんな想いが映っている。


どんよりと曇った空。低い雲が僕を押しつぶそうとする。
僕は相棒に身を寄せて必死で抵抗する。


間宮林蔵はここから旅立った。僕はどうしてもこの先には進めない。


キャンプではカレーを食べない、という信念が崩れ去った夜。