第5日 静電気

網走〜宗谷岬〜稚内森林公園キャンプ場(342km)
電気仕掛けではない。 疲れたときに、充電する、という人がいる。 この人は、電気仕掛けだろうか? 僕は、生きている。 開いたことはないけれど、たぶん生身の人間だろう。 だから充電は必要ないけれど、 けれど、静電気はたまりやすい。 ときどき、 ぱちぱちと、 胸の奥で火花が散っている。 オホーツクの海を眺めながら、 ひたすら走っている。 無茶な追い越しと、 飛び出すかもしれない鹿と、 ころころと変わるラジオの周波数に気をつけていれば、 あとはあまり考えることもない。 つい、 静電気を意識してしまう。 いま、どのくらいたまっているのだろうか。 昨日の地震みたいに、いきなり爆発することはないだろうか。 最北の岬は、すべてを吐き出させてくれるだろうか。 荒々しく打ち寄せる波を、 しかし僕はわざと気づかないふりをして、 なだらかな丘陵に車を向ける。 宗谷丘陵。 長旅の結末を迎えるための演出としては十分すぎるほど、 優しげな表情を見せてくれている。 僕は目頭が熱くなる気がした。 やがて、小さな、最北の町が見えてくる。 さりげなく並んだ家々、さりげなく曲がった道。 そこに、静かに現れるのが宗谷岬だ。 車を止め、碑の裏に回る。 そこは、最北の岬の先端。 かすかに、樺太が見える。 僕は目を閉じて、耳を澄ましてみた。 胸の奥から聞こえてくるのは、 力強い鼓動だけだ。 僕は立ち上がった。 この旅は何だ? 僕は何だ? 答えは見つからないけれど、僕は澄んでいた。 いくぶん軽くなった体で、僕は稚内に向かった。 高台から市内を一望できる稚内公園。 市内を走る車やバイクの音、船の霧笛でとてもにぎやかだけれど、 それを見下ろす公園にぽつりとひと張りだけのテント。 まるでガラスで世間と仕切られているような、 不思議な空間だ。 明日からは、帰るための旅になる。 もっと旅を続けたい。けれど、 身軽になった僕は、今すぐに帰りたくもなっている。 僕は、どこへ向かうだろうか。                     2003/09/27 稚内にて