第3日 湿度

百人浜キャンプ場〜釧路〜霧多布岬(308km)
湿度が上がる時がある。 それはたとえば、 つまらない仕事を押しつけられたときとか、 些細なことでけんかをしてしまったときとか、 あるいはこれといった理由もなく。 うつむき加減で歩いていると、 少しだけ、湿度が上がってしまう。 そんなときに雨が降ると、 僕は、 その場にへたりこんでしまう。 幸い、僕は今、旅の途中にいる。 へたりこむ必要もなく、 僕は今日を、湿っぽい日、とした。 予定は変更だ。 まずは予定通り釧路へと向かう。 黄金道路と呼ばれる、難工事の末にやっと開通した道路。 釧路までの約200kmを一気に走り抜ける。 いくつものトンネル、いくつもの牧場、いくつもの森。 関係ない。湿っぽくないものは、見たくない。 昼前に、釧路に着いた。 釧路は、住宅と湿原が、人と自然がせめぎ合う最前線の街。 いつか人が勝ってしまうのだろう。 いつか湿原は、 埋もれてしまうのだろう。 だからこそ、今見ておきたい。 湿原一帯を、霧とも雲ともつかない白い幕が覆っていた。 湿っぽい上に、さらに湿っぽく。 その中を、釧路川は流れ続けている。 その終焉を、まったく予感させない流れ。 それは、僕の湿っぽさを決して否定しない流れだ。 そうだ。 湿っぽくてもいい。 僕は、次の湿原、霧多布湿原に向かった。 霧多布へは行かないつもりだったが、今日は湿っぽい日だ。 予定よりも、気分を先に立たせよう。 荒涼とした風景、眼下に広がる湿原。 何年前になるだろうか、 僕はやはりここに来ている。 しかし、湿原を見ることはなかった。 あのときは、霧多布といえば岬しか興味がなかった。 今の僕は、湿原を見ることができる。 これが、変わったということだろうか。 岬まで進むと、 僕は、誰もいないキャンプ場にテントを張った。 あのときの僕は、ここで何を考えていただろう。 岬を見て、感動していただろうか。 霧の深さを、恐れていただろうか。 それとも、食事の支度に精一杯だっただろうか。 今の僕は、振り返っている。 今日と、自分と、あのときの自分を。 風はまだ強く吹き続け、雨粒がテントを叩いている。                     2003/09/25 霧多布岬にて