第6日 日常

稚内〜名寄〜旭川〜層雲峡(354km)
どうにもならないことがある。 小さな町が目覚める前に、 小さな僕は、 小さな車に詰め込むガソリンを探して、 走り回っていた。 日曜日だということは、 ラジオのアナウンサーが告げるまで忘れていた。 日曜日は、ガソリンスタンドも8時まで開かないらしい。 僕は、その場に車を止めて、シートを倒した。 台風。雨。風。地震。 わずか1週間の間に、 僕はどうにもならないことに何度も翻弄された。 ガソリンもそうだ。 タンクが空っぽのままでは、僕は走れない。 僕はパンをかじり、 僕と同じように腹を空かせている相棒と、 小さなため息をもらした。 町が目覚めると、僕の一日も始まった。 稚内から、日本海・利尻水道の向こうに浮かぶ 利尻富士と共に一気に南下する。 やがて利尻が僕に追いつけなくなったころ、 僕は内陸のサロベツ原野に向かった。 寂しげな、茶色の原野は僕を引き込もうとしたけれど、 僕には帰るべき場所があることを、 今の僕は知っていた。 音威子府、美深、名寄。 いくつもの町、いくつもの暮らし。 旅人の僕にはわからない日曜日の過ごしかた。 あの子供は、これからどんな遊びをするのだろう。 あの老人は、ゆっくりと歩いてどこへ行くのだろう。 僕がそれを知ることはない。 僕と彼らの軌跡は、おそらく今この瞬間交わるだけだろうから。 旭川の町は、久しぶりに見る都会だった。 僕は、人々に埋もれるように今夜の食料と少しの酒を手にし、 層雲峡に向かった。 テントを張ったが、川の向こうの国道を、 ひっきりなしにトラックが通っている。 キャンプとか、旅情とか、 それよりも彼らの日常が優先されている。 それもまた、どうにもならないことだ。                     2003/09/28 層雲峡にて