第7話:2日目A・深緑の森鳥たちに囲まれ、あろうことかすっかりウフフエヘヘ的にふやけた表情になってしまった僕らは、これはいかんと正気を取り戻し、気をぐいっと引き締めて森の中へ分け入っていった。森の中とは言っても、ウォーキングトラックが車椅子でも散策できるほどよく整備されている。森はなるべく自然のままに置いてあるらしく、倒れてしまった木もウォーキングトラックに乗った部分だけを切り取って脇へ寄せ、他の部分はあるままになっていた。 森の中ではほとんど人とすれ違うこともなかったが、ときおり出会う人々はみな同じように穏やかに微笑んでいるように見えた。もっとも、誰もがおお大自然よ私は今あなたに抱かれ...と悟りを開いているわけではなく、とりあえずぼんやりと木々を眺めがならトラックの上を歩いており、つまりはユルんだ表情をしているだけなのだった。僕も同じようにユルんだ表情で上下左右をゆらゆらと眺めながらとにかく道沿いに歩いた。 ![]() 20メートルも進むと、橋は大きな木のところで直角に左に折れていた。そこからが本格的なツリートップ・ウォークなのだけれど、その前にひとつイベントがある。この大きな木に取り付けられたハシゴを垂直に登ってゆくと、小さな展望台になっていて森の中を遠くのほうまで眺めることができる。上から2人組が降りてきたので、僕らは彼らが下りきるのを待ってから上った。 ![]() 最上部は2人立つのがやっとなくらいの狭さだった。既に他の木々よりも高いくらいで、眺めはすばらしい。しばらく惚けていたい気もしたが、次の人が下の段で待っていたので、そうも言っていられない。僕らは、そそくさとハシゴを下りた。 つり橋のところまで戻ってくると、若い男が、怖かったかいと聞いてきた。正直言って最上段はゆらゆらと揺れて怖かったが、僕は見栄を張ってべつに怖くなかったよと答えた。若い男は怪訝な表情をしたので、僕は何か頓珍漢な答えをしたんだろう。しかし、世界中の人間すべてが英語を理解できるわけじゃないんだぞこのやろう、といまさら憤慨してもどうにもならない。 ![]() このつり橋は、どうもその構造がよくわからない。ときどき木の柱が地面から立っているけれど、あまり頑丈に固定されている感じはせず、明らかにゆらゆらと揺れている。どこかからワイヤーを引っ張ってきて橋に結びつけ、それだけじゃまあなんだから木の柱で支えようか、ということらしい。 僕らはときどき橋の下をのぞき込みながら、橋を渡りきった。ガイドブック等ではこれはもうここに来たらこれを体験しない手はないでしょう、いやいやぜひ体験してみたいと大げさに煽っているが、渡ってしまえばなんということもない橋だった。まあ名物というのは大抵こんなものだ。僕らは、しばらく森の中を歩いたが、どこまで行っても大して森の様子に変化がないので引き返すことにした。 |
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