第8話:2日目B・金色の願いゲストハウスの所まで戻ると、時刻はちょうど3時をまわったところだった。カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリのナイトツアーが今夜催行されるかどうか、決まった頃だ。 僕は公衆電話にクレジットカードを通し、カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリの番号を押した。 3回のコールの後、「ハロー、カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリ」と聞こえたので、とりあえず昨日の日本人スタッフを呼んでもらおうと、「アー、」と言ったところで、突然電話が切れてしまった。おかしいなと思いつつ、もう一度同じようにかけてみたが、やはり「アー」で切れてしまう。 僕は、もう一箇所公衆電話があったことを思い出し、そちらに向かった。小さなログハウス風の電話ボックスで、たいへん趣深いけれどもそんなことはこの際どうでもいい。もう一度カードを通して電話をかけたが、やはり切れてしまった。なんてことだ。これじゃまるで、電話をしたけれどもガイジンが出たので慌てて切ったみたいじゃないか。次こそは日本人が出てくれよと願いながら何度もかけ直してるみたいじゃないか。 ひょっとしてクレジットカードがいけないのか、と、今度は硬貨を入れてかけてみた。また切れるかも、と身構えたが、今度は切れないようだ。僕は、決してガイジンにひるんだわけじゃないぞと、できるだけ流暢に「日本人スタッフを呼んでくれたまえ」と言った。できるだけ流暢に、というのは失敗したけれど、とにかく昨日のスタッフが電話口に出た。 ![]() そうなると、夜にはカランビンに行かなければならないが、それまでは時間がある。僕らは、あまり人が訪れないという「ウィッシング・ツリー」を見に行くことにした。これは、木の根もとに大きな穴が空いており、そこをくぐると願いが叶うというものだ。僕らは一攫千金を夢見て、ウィッシングツリーを目指した。 ガイドブックには、ゲストハウスの裏の道を行くと書いてあるが、それらしい道はない。地図を見ても、どうもはっきりしない。僕らは、まあだいたいこっちでしょうと、適当に歩き出した。二人とも、両目に「¥」の文字がくっきりと浮かんでいる。 ゲストハウスの裏を進むと、コテージ風の建物がいくつも並んでいて、ときどき滞在者とすれ違う。みな長期滞在しているようであって、つまりはふらりと立ち寄った観光客が歩くのはとても場違いで、自分が異分子であることをひしひしと感じてしまう。しかし僕らは構わずそのまま進んだ。なんとしても、ウィッシングツリーに一攫千金を願わねばならぬ。 ![]() ![]() ![]() 僕は木の下に入り、手を組んだ。まあ、洋式にしておいたほうが無難だろう。 さっきまでは¥マークだった僕の目は、森の空気に浄化され、すっかり普段のようにキラキラと澄んで輝いている。僕は、日々思い続けているように、世界平和やこの地球上のすべての生物の幸福を願った。本当だってば。 来た道を戻り森から出ると、外はとてもまぶしかった。これからゴールドコーストに戻って食事をすれば、ちょうどナイトツアーの時間だ。僕らはおみやげに絵はがきとピンズを買い、車に乗った。 僕らはラミントン国立公園を後にした。 |
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